郁子。アケビ科のつる性常緑低木、その実。長寿の木の実の伝承がある。
関東以西、四国、九州の暖地の山中に生える。庭木や盆栽にもされる。
五月頃、薄紅紫色の花をつける。果実は長さ5cm、暗紫色に熟し甘く生食される。茎・根は利尿薬になる。
漢名は野木瓜をあてる。うべ、うむべ、ときわあけび、とも。
このような話が伝わる。
昔、円山というところに働き者の夫婦がいた。朝は朝星をいただき、夜は夜星をいただき野良で働いたがもともと達者なほうやなかったんや。
病気がちで、命を大切に思い足元の蟻にも気をつかうような夫婦だったが、病苦のすえ、ある日とうとう淵に身投げしようと水辺で
着物の袖や懐に石をいれていると、鳥が草むらに落ち傷ついて血を流していた。夫婦は身投げをやめて鳥の介抱をした。
傷が癒えて飛び去った鳥は恩返しなのか木の実を運んできて蒔くように勧める仕草をした。蒔くと、あっという間に人の背丈まで伸び果実がなった。 食べると体の弱かった夫婦はなんぼでも働けるようになった。
その後のある日。五月の節句の日に取った薬草はよく効くというので、天皇一行が薬草採りに出たとき、たまたま老夫婦に目がとまった。 長生きの秘訣をたずねられ、爺は鳥が運んできたモモ(果物)を食べているからと、紫色の果実を差し出した。
天智天皇はその実を食べると「むべなるかな」とおっしゃったんや。
以後、円山ではこの果実を「むべ」と呼ぶようになったという。
(むべの実 採集者 福井いづ子 再話者 大井道子 『日本の民話』20巻 近江の民話 湖東)
「むべの貢(みつぎ)」陰暦11月1日、近江の国(滋賀県)からムベの実を宮中に献じた行事。
延喜式-三三・大膳 「諸国貢進菓子<略>近江国。郁子二輿籠」
延喜式-三一・宮内省「諸国所 進御贄<略>近江<郁子>」
参考資料
・
日本国語大辞典
・『日本の民話』 20 近江の民話 伊勢・志摩の民話
他
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