またはズールト。ゲルマン、北欧神話、エッダに出てくる炎の巨人。名前は「黒」の意。火の世界ムスペルスヘイム(ムスッペルヘイム)に住む巨人族の王。炎の巨人のなかで最強。
炎の剣レーヴァテインを持つというが、はっきり明示されている文献は無い。
『図説 北欧神話』(2019 トム・バーケット著)ではムスペルヘイムの記述のあと'スルト(黒焦げのもの)がこの国を守っている。そして「枝の破滅」と呼ばれる炎の剣を持つ'と書かれている。
菅原邦城氏の『北欧神話』ではエッダ「巫女の予言」の一文「スルトは南から出かける 枝の破滅[火]をたずさえて。」と、「枝の破滅」は火のこと、比喩だとしている。
ともかくラグナロクの時は炎の剣で、世界を炎に包む。
虹の橋ビフレストは、巨人スルトが渡ったあと、焼け砕け壊れるという。
「巫女の預言(ちくま文庫『エッダ グレティルのサガ』より)」では、「南より、スルトは木の敵(注:火を言いかえた表現)を手に押し寄せ、その剣は戦いの神々の日輪をも欺いてかがやく。」 「むかし巨人ベリを屠った神フレイが、スルトを倒さんとして出陣するや、新たなる悲しみがフリーン(注:フリッグ)をおそう。フリッグの夫の命運は、そこでつきる。」(※フレイはスルトに敗れる) とある。
山室静氏の『ギリシャ神話 付北欧神話』では、フェンリル狼がオーディンを呑み、ヴィーダルがその仇を射ち、ヘイムダルとロキが相討ちになった後、
「そこへスルトルが巨大な火の剣を投げつけた。全世界は火の海になって燃えあがり、イグドラシルの宇宙樹もついに炎に包まれてどうとたおれ、大地は海の底へ沈んでいった。 こうして「巫女の予言」に歌われた通り、神々の世界は滅び去っていった。」と書いている。ちくま文庫は抄訳なのか、これと同じ記述(スルトが火の剣を投げる記述)はみえないが、世界が滅び、再生する記述では同様の内容はある。
谷口幸男氏の『エッダとサガ』ではラグナレクルの記述の終盤「スルトは大地の上に火焔を投げて全世界を焼き尽くす。大地は海に没し、焔と煙は猛威をふるい、火炎は天地をなめる」と書いている。
参考資料
・エッダ グレティルのサガ ちくま文庫 (松谷健二 訳)
・ギリシャ神話 付 北欧神話 (山室静:著)
・図説 北欧神話 原書房 (トム・バーケット:著、井上廣美:訳)
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エッダとサガ―北欧古典への案内 (新潮選書) 谷口幸男:著
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北欧神話 (菅原邦城:著)
・図説 妖精百科事典 東洋書林 (アンナ・フランクリン:著、「Myths of the Norsemen」H. A. Guerber:著)
(C) 幻想世界神話辞典 - GENSO SEKAI Myth dictionary